丑のお話し 

◯メスウシとライオン

むかしむかしのお話しです。
 一頭のメスウシが川に水を飲みに行った時、ついでに川のほとりの青い草をいっぱい食べました。  さて帰ろうとすると、不運な事に腹ぺこのライオンに会ってしまいました。
「おい、メスウシ。覚悟しろ。お前を、食べてしまうぞ!」  ライオンは、すぐに飛びかかりそうな勢いです。
 メスウシは後ずさりしましたが、でも気をとりなおして考えました。 (どうせ、いつかは死ぬのです。それなら、わたしを欲しがっているライオンに、わたしの体を やって死ぬのが、立派な死に方かもしれない)
 メスウシは、ライオンに言いました。 「どうぞ、わたしを食べてください。でも、ひとつお願いがあるのです」
「なんだ?」
「お腹を空かせている子ウシが、わたしの帰りを待っています。 どうかわたしに、おっぱいをやりに行かせてください。  すぐに、戻ってきますから」
「だめだ! 帰って来ないに、決まっている!」
「帰って来ます。  約束は、守ります。  いま子ウシに飲ませなければ、わたしのおっぱいはむだになってしまいます。  何かの役に立つという事は、とても大事な事でしょう?」
「・・・ふむ。じゃあ、行って来い。おれは、ここで待っている」  ライオンはしぶしぶながらも、しょうちしました。
 メスウシは急いで家へ帰ると、子ウシを呼びました。 「さあ、おいで坊や。わたしのおっぱいを、たっぷりとお飲み」
 ところが利口な子ウシは、お母さんの様子がいつもと違う事に気がつきました。
「お母さん、何か心配事があるんでしょう?  話してよ。  話してくれなければ、ぼく、おっぱいを飲まないよ」
 子ウシがあまりにしんけんなので、メスウシはとうとう本当の事を話しました。
「ね、わかったでしょう。  いい子だから、はやく飲んでね。  お母さんは、ライオンとかたく約束をしたのだから」
 すると子ウシは、泣き出しそうな顔でお母さんを見上げました。 「お母さん。  ぼくもお母さんと、一緒に行く。  お母さんが一人でライオンのところへ行くと思ったら、ぼく悲しくて、おっぱいを飲む事なんか出来ないよ」
 メスウシは、子ウシを抱きしめました。
「お母さん」  子ウシは、言いました。
「この世の中で何かの役に立つのは、いい事だって言ったでしょう。  お母さんとぼくを食べればライオンもお腹が一杯になって、しばらくは他の動物を食べたりしないよ」
「でも、お前までが食べられるなんて・・・」
「いやだ! お母さんと一緒に行く!」
 子ウシは、決してメスウシのそばを離れようとはしません。  仕方なくメスウシは子ウシを連れて、ライオンのところへ急ぎました。
「ライオンさん、約束通り帰って来ました。  子ウシも、一緒です。  さあ、わたしたちを食ベてください。  あなたはお腹がペコペコでしょうが、あたしたちを食べればしばらくは他の動物を食べなくてもいいはず。  自分の体をささげて他の動物を助けるのは、大変大事な事ですから」


ライオンはメスウシの話しを、ジッと聞いていました。  その目には、なみだが浮かんでいます。
「さあ、ライオンさん、どうぞ」 「ぼくも、どうぞ」  ウシの親子はそう言うと、しずかに目をつむりました。
 すると突然、ライオンはお腹を押さえるとウシの親子に言いました。 「あたっ、あいたた!  急に、お腹が痛くなってきた。  これでは何も、食べる事は出来ない。  ざんねん、ざんねん」
 そしてライオンは、そのまま帰って行きました。


◯牛の鼻ぐり

むかしむかし、きっちょむさんと言う、とてもゆかいな人がいました。
 きっちょむさんは、あまりお金持ちではありませんが、お金がなくなってくると、ヒョイと、いい知恵が浮かんでくるのです。
 ある日の事、きっちょむさんは畑仕事をしながら、町へ行く通りがかりの人を呼び止めては、
「すまんが、町のあらもの屋で、ウシのはなぐりを買ってきてほしいんじゃ。数は、いくつあってもいい。値段は、なんぼ高くてもかまわん」 と、変な事を頼みました。
 みんなが引き受けてくれましたが、帰ってきて、 「あいにく、売り切れとるそうじゃ。ウシの鼻につなを通す、はなぐりの輪など、めったに売れるもんではないから、ふだんはおいてないそうじゃ」
「おれもずいぶん探したが、一つもなかった。『今日はいく人も、はなぐりを欲しいという人がきた。こんな事なら、たくさん、しいれておけばよかった』と、くやしがっとったわい」 と、口々にいいました。
「それはどうも、すまん事じゃった」  きっちょむさんは、ガッカリするどころか、喜びながら家に帰りました。
 さて次の朝、きっちょむさんは、作ってためておいたウシのはなぐりを、町へかついで行って、 「ウシのはなぐりはいりませんか?」
 町中のあらもの屋をまわりました。
「これはいいところにきてくれた。いくつでもおいていってくれ」
 昨日、もうけそこなっているので、どこのあらもの屋でも、喜んでしいれてくれました。
「さあ、これで、昨日のお客が来てくれれば、ひともうけできるぞ」
 あらもの屋は、もうけのそろばんをはじきましたが、ウシのはなぐりは、さっぱり売れません。
 もうかったのは、きっちょむさんだけでした。


◯ウシ飼いと裁判官

むかしむかし、ある貧乏な男がお金持の裁判官に、ウシ飼(か)いとしてやとわれました。
 ウシ飼いは、やせ細ったウシを一頭持っていました。  そのウシを、いつも主人のウシと一緒に、牧場に連れて行きました。
 ある日の事、どうしたことか、主人のウシとウシ飼いのウシが、けんかをはじめました。  そして、やせっぽちで弱いはずのウシ飼いのウシが、主人のウシをツノで突き殺してしまいました。
 ウシ飼いは、主人の裁判官のところへかけつけました。 「ああ、おなさけ深いだんなさま。たいヘんな事がおこりました。どうか公平(こうへい)に、おさばきくださいませ」
「よろしい。話してみなさい」
「実はは、今日、牧場でだんなさまのウシが、わたくしめのウシとけんかをしまして、わたくしめのウシを突き殺してしまいました。神さまは罪をおかしたウシに、どんな罰をおくだしになるのでしょうか?」
「まて、まて。はじめから、くわしく調べよう。わしのウシは、おまえのウシをにらんだかね」
「いいえ、だんなさま」
「わしのウシが飛びかかったとき、おまえのウシは、モーと、ないたかね」
「はい、だんなさま」
「では神にちかって、正直に言うのだぞ。おまえのウシが、わしのウシを怒らせたのだろう」
「そんな事はわかりません。だんなさま。モーと言ったのが、どんなわけかなんて、調べられませんよ」
「それでは、どっちが悪かったのか、おまえにはわからないのだな」
「はい、だんなさま」
「どちらが悪かったのか、わからないとすれば、罰(ばつ)する事もできない。動物をさばく事など、できると思うか?」
「そのとおりでございます。だんなさま。まったく、公平におさばきくださいました。ただ、あの・・・」
「なんだ。まだ用があるのか?」
「あの、いま思い出したのでございます。わたくしが、考えちがいをしておりました。わたくしめのウシが、だんなさまのウシを、殺してしまったのでございます」
「なんだと。そうか。では、神がおまえのウシに、どんな罰をおくだしになるか、本で調べよう」
「おや? だんなさま。あなたさまのウシが罰をうけなくてよいのなら、わたくしのウシもうけなくてよろしいでしょう。動物をさばくことなど、できるとお思いですか?」
「そっ、それは・・・。そのとおりだ」
 裁判官は、それ以上、もう、何も言えませんでした。
「牛飼いと裁判官」(ボスニアの昔話)


◯逃げた黒牛

 むかしむかし、きっちょむさんと言う、とてもゆかいな人がいました。
 きっちょむさんのおじさんは、りっぱな黒牛を一頭持っていました。
 ある日、その黒牛を連れて、きっちょむさんのところへやってきました。
「きっちょむ、実は急用で町へいくことになった。二、三日でもどってくるが、その留守(るす)のあいだ、こいつをあずかっていてくれないか」
「いいですよ。どうぞ、気をつけていってらっしゃい」
 きっちょむさんは、こころよく黒牛をあずかりました。  さて、きっちょむさんがその黒牛を連れだし、原っぱで草を食べさせていると、一人のばくろうが通りかかりました。
 ばくろうとは、牛や馬を売ったり買ったりする人のことです。 「ほう、なかなかいい黒牛だな。どうだい、わしに十両(70万円ほど)で売らんか」
「十両?! ほんとうに、十両だすのか?」
「ああ、だすとも、こいつは十両だしてもおしくないほどの黒牛だ」
 十両ときいて、きっちょむさんは、急にそのお金がほしくなり、 「よし、売った!」
 きっちょむさんは、勝手におじさんの黒牛を売ってしまいました。 「それじゃあな、たしかに金は渡したよ」
 ばくろうが黒牛をひいていこうとすると、きっちょむさんがあわてて呼びとめました。 「ちょっと待ってくれ! すまんが、その黒牛の毛を二、三本くれないか」
「うん? まあ、いいが」
 きっちょむさんは、黒牛の毛を三本ほど抜いて、紙につつみました。
 それから、二、三日たって、おじさんがもどってきました。 「きっちょむ、すまなかったなあ、黒牛をひきとりにきた」
 その声を聞くと、きっちょむさんは、大いそぎで裏口からとびだしました。
 それから石垣(いしがき→石の壁)の穴に、牛の毛を三本つっこみ、そして片手をさしこむと、 「大変だ、大変だー! 牛が逃げる! だれかー! はやく、はやくー!」
「なに、牛が逃げるだと!」  おじさんはビックリして、かけつけてきました。
 ところが、きっちょむさんが石垣に手をつっこんでいるだけで、黒牛の姿はどこにも見あたりません。
 きっちょむさんは、おじさんの顔を見て、またわめきたてました。 「おじさん、早く早く! 黒牛が石垣の中へ逃げこんだ。いま、しっぽをつかまえてる。しっぽがはずれるー!」
 おじさんがあわててかけよると、きっちょむさんは石垣から手を抜き、
「ああ、だめだ。とうとう逃げられた。おじさん、かんべんしてください。これは、あの黒牛の形見(かたみ)です」 と、言いながら、黒牛の毛を三本渡しました。
 おじさんが、いそいで石垣の裏にまわってみましたが、どこにも黒牛の姿はありません。
 おじさんはガッカリして、その場にヘナヘナとすわりこんでしまいました。


◯ウシと車軸

ウシたちが、荷車をひいていました。 荷車の車軸が、キイキイときしみました。
するとウシたちは、車軸にむかって、 「よせやい、荷物をひっぱっているのはおれたちだぜ。おまえが泣くことはないだろう」
と、いいました。
この車軸と同じように、じっさいにはたらいているのはほかの人なのに、自分だけがはたらいてくたびれたという顔をする人がいます。


◯牛の恩返し

むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんときれいな娘が住んでいました。
 ある時、お城の若殿さまが狩りに行って、にわか雨に降られたので、おじいさんとおばあさんの家で雨やどりをしたのですが、その時、若殿さまは娘を見染めて(みそめ→気に入り)、 「近い内に、娘を嫁にもらいに来るぞ」 と、いって帰って行きました。
 それから二、三日後、おじいさんの家で法事(ほうじ)があり、和尚(おしょう)さんを呼んだところ、和尚さんまでが娘を気に入ってしまいました。
 でも和尚さんは仏(ほとけ)につかえる身で、女性と結婚する事ができません。
 娘はほしいが、嫁にくれというわけにも行かず、そこでおじいさんとおばあさんをだます事にしたのです。
「じいさま、ばあさま、お前さまの娘は私の見たところ、近々ウシになりそうだ。仏さまの前でお経を読んでやるから、二、三日寺によこしなさい」
 翌朝、おじいさんとおばあさんは、カゴ屋を呼んで娘をお寺へやりました。
 ところが酒好きのカゴ屋が、カゴを道に置きっぱなしで酒屋に酒を飲みに行ったのです。
 そこへお城の若殿さまが通りかかり、娘をみつけて城へ連れて行ってしまいました。
 そのあと娘の下りたカゴへ、どこから逃げて来たのか、一匹の小ウシが逃げ込みました。
 ちょうどそこへ帰って来たカゴ屋は、何も知らずに寺へ行きましたが、いつのまにか娘が小ウシになっていたので、和尚さんもカゴ屋もビックリ。
 和尚さんは、おじいさんとおばあさんに、 「娘はお経を読む前にウシになってしまった。もう、わたしのお経では人間にもどす事は出来ません」 と、おじいさんとおばあさんに、ウシを取りに来させました。
 おじいさんとおばあさんは泣く泣く小ウシを家に連れて帰り、大切に育てました。
 そのうちウシは大きくなり、おじいさんとおばあさんを乗せて田んぼに行くようになりましたが、ある日の事、突然ウシは二人を乗せて走り出して、とうとう城の中へ飛込んだのです。
 突然のあばれウシに、城の中は大騒ぎになりました。
 そこへ、娘が出て来て、 「おや? 父さんに母さん、よく来てくれましたね」 と、むかえられて、おじいさんとおばあさんと娘と、それにウシは、お城の中で幸せに暮らしたという事です。


◯黒ウシの助け

イギリスの昔話
むかしむかし、あるところに三人の娘がいました。
 ある日、一番上の娘がいいました。 「お母さん、パンと肉を焼いてください。しあわせをさがしにでかけますから」
 お母さんは、パンと肉を娘にやりました。
 娘は魔法使いのせんたく女のところへいって、これからしあわせをさがしにいくのだと話しました。
 すると、せんたく女は、 「しばらく、わたしの家にとまっていきなさい。そして、まいにちまいにち、うら口から外を見ておいで。なにか見えたら、わたしにいうんですよ」 と、いいました。
 さっそく娘は、うら口から外を見ました。
 はじめの日は、なにも見えませんでした。
 二日目も、なにも見えませんでした。
 三日目に、娘が外を見ていると、六頭だての馬車(ばしゃ)がやってきました。
 すると、せんたく女は、 「あれは、あなたの馬車ですよ」 と、いうので、娘が外へ出てみると、馬車に乗っていた人がおりてきて、娘を馬車に乗せてくれました。
 馬車はそのまま、かけ足でいってしまいました。
 さて、うちでは、二番目の娘がお母さんに、 「お母さん、パンと肉を焼いてください。しあわせをさがしてきますから」 と、いいました。
 お母さんは娘のいうとおり、パンと肉をやりました。
 この娘も、魔法使いのせんたく女のところへいきました。
 そしてやはり、うら口から外を見て、二日すごしました。
 三日目に娘が外を見ていると、四頭だての馬車がきました。
 せんたく女は、 「あれは、あなたの馬車ですよ」 と、いうので、娘が外ヘ出てみると、馬車に乗っていた人が、娘を乗せてくれました。
 そして馬車は、かけ足でいってしまいました。
 こんどは、一番下の娘が出かけたくなって、お母さんにパンと肉を焼いてもらいました。
 そして、せんたく女のところへいきました。
 せんたく女は、 「まいにち、うら口から外を見ておいで。なにか見えたら、わたしにいうんですよ」 と、いいました。
 さいしょの日は、なにも見えませんでした。
 二日目も、なにも見えませんでした。
 三日目になりました。
 娘がうら口から見ていると、黒ウシがひくい声でうなりながらやってきました。
 すると、せんたく女は、 「あれは、あなたのウシですよ」 と、いいました。
 娘はビックリして、なきそうになりました。
 けれども、せんたく女にいわれたとおり外に出ました。
 すると黒ウシがまっていたので、娘は黒ウシによじのぼりました。
 娘が黒ウシの背中にすわると、黒ウシはかけだしました。
 ドンドンすすんでいくうちに、娘はだんだん、おなかがすいてきました。
 やがて、おなかはペコペコになって、今にも気が遠くなりそうです。
 するとそれに気がついたのか、黒ウシが娘にいいました。
「わたしの右の耳からたべなさい。そして、左の耳から飲みなさい」
 娘は、いわれたとおりにしました。
 たべおわると、娘はとても元気になりました。
 ウシは娘を乗せたまま、なおもすすんでいきました。
 やがて、りっぱなお城が見えてきました。
 すると黒ウシは、 「こんやは、あのお城にとまりましょう。わたしの兄が住んでいますから」 と、いいました。

 まもなく、お城につきました。
 お城の人が出てきて、娘を黒ウシの背中からおろして、城の中へ案内してくれました。
 黒ウシは、草地につれていかれました。  朝になると、お城の人は娘を、りっぱなへやにつれていきました。
 そして娘に、リンゴを一つわたしていいました。
「なにかこまったことがあったら、このリンゴをわりなさい。きっと、あなたはたすけてもらえます」
 娘はふたたび、黒ウシの背中に乗りました。
 黒ウシは娘を乗せて、ドンドン、ドンドンすすみました。
 しばらくすると、まえよりももっと美しいお城が見えてきました。
 すると黒ウシは、 「こんやは、あそこヘとまりましょう。わたしの二番目の兄が住んでいます」 と、いいました。
 お城につくとお城の人たちが出てきて、娘を黒ウシからおろして、お城の中へ案内してくれました。  黒ウシは、草地ヘつれていかれました。
 朝になると、お城の人は娘をりっぱなヘやへつれていって、きれいなナシをわたしました。
「なにかこまったことがあったら、このナシをわりなさい。きっと、あなたはたすけてもらえます」 と、お城の人がいいました。
 娘は黒ウシの背中に乗って、また旅をつづけました。
 黒ウシがズンズンすすんでいくと、まえのふたつよりもずっと大きなお城が見えてきました。
「こんやは、あそこにいかなきゃなりません。わたしの一番下の兄が住んでいるのです」 と、黒ウシがいいました。
 お城につくと、お城の人たちがやってきて、娘を中に案内してくれました。
 黒ウシは、やはり草地につれていかれました。
 朝になると、娘は一番りっぱなへやヘつれていかれました。
 お城の人は、娘にスモモをわたして、 「なにかこまったことがあったら、このスモモをわりなさい。きっと、あなたはたすけてもらえます」 と、いいました。
 娘は、黒ウシの背中に乗りました。  黒ウシは、またドンドンすすみました。
 そして、うすぐらい谷間にやってきました。  黒ウシは足をとめて、娘をおろしました。
 黒ウシは娘に、 「あなたはここにいなくてはいけません。わたしは、ちょっとつよいやつと戦ってきますから、あなたはあの石の上にすわっていてください。そして、わたしが帰るまで、手も足も動かしてはいけませんよ。もしあなたがちょっとでも手や足を動かすと、わたしが勝ってもどってきても、あなたを見つけだすことができなくなってしまうのです。もし、あたりが青くそまったら、わたしはそいつをやっつけたと思ってください。赤くそまったら、わたしはやられてしまったと思ってください」
と、いって、いってしまいました。
 そこで娘は、石の上に腰をおろしました。  しだいに、あたりが青くなってきました。  黒ウシが、勝ったのです。
 娘はうれしさのあまり、つい、足を組みあわせてしまいました。  黒ウシはもどってきて、娘をさがしました。
 しかし、どうしても見つかりません。  娘は、ながいことすわって黒ウシを待ちましたが、黒ウシは現れません。
 娘はシクシクと泣きましたが、やがてたちあがって、歩きだしました。
 けれども、いくあてもありません。  歩きまわっているうちに、ガラスの丘につきました。
 娘はなんとかして、ガラスの丘にのぼろうとしましたが、どうしてものぼれません。
 娘は泣きながら、ガラスの丘のふもとをグルリとまわりました。
 ウロウロ歩いているうちに、娘はかじやの店のまえに出ました。
 かじやは、 「七年のあいだうちで働いたら、鉄のクツをつくってやろう。そうすれば、ガラスの丘にのぼることができるだろう」 と、いいました。

 そこで娘は七年のあいだ働いて、鉄のクツをもらいました。  そして、ガラスの丘をのぼったのです。
 そこには、もう一人のせんたく女の家がありました。  家の中には血だらけの服をきた、わかい騎士(きし)がいました。
 なんでも、その服をきれいにあらったものが、騎士のおくさんになれるということです。
 せんたく女は、いっしょうけんめいあらいました。  けれど、どんなにあらっても、血はとれませんでした。
 こんどは、せんたく女の娘があらってみました。  どんなにゴシゴシこすっても、血はすこしもおちません。
 そこで、鉄のくつをはいてきた娘があらってみました。  すると、血はみるみるうちにおちて、服はきれいになりました。
 ところが、せんたく女の娘は、 「服をきれいにしたのは、わたしです」 と、騎士にうそをつきました。
 こうして騎士とせんたく女の娘が、結婚することになりました。
 これを知ると、鉄のくつをはいた娘は、ひどくガッカリしました。
 一目見たときから、騎士が大好きになっていたからです。  娘はふと、リンゴのことを思いだしました。
 リンゴをわってみると、中から金や宝石が出てきました。
 娘は、せんたく女の娘に、 「これをみんなあげるわ。そのかわり、結婚するのを一日だけのばしてちょうだい。そしてこんや、わたしを騎士のヘやにはいらせてください」 と、たのみました。
 せんたく女の娘は金と宝石をもらって、娘の申し出を承知(しょうち)しました。
 ところがせんたく女は、騎士にねむりぐすりを飲ませたのです。
 騎士はねむりぐすりをのんで、朝までグッスリとねむってしまいました。  娘は騎士のべッドのそばで、夜どおし泣いていました。
 そして、
♪七年のあいだ、あなたのために、つくしました。
♪ガラスの丘をよじのぼり、
♪きものの血も、あらったわ。
♪それでも、あなたはねているの。
♪こっちをむいて、くださらないの。
と、うたいました。

 つぎの日、娘は悲しくて悲しくて、どうしてよいかわかりませんでした。  そしてふと、ナシをわってみました。
 ナシの中には、まえよりもずっとたくさんの、宝石や金がはいっていました。
 これを、せんたく女の娘にやって、 「もう一日、結婚をのばしてください。そしてもうひと晩、騎士のへやにはいらせてください」 と、たのみました。
 せんたく女の娘は、承知しました。
 けれども騎士は、その晩もせんたく女にねむりぐすりを飲まされて、朝までグッスリねてしまいました。
 娘は、ため息をついて、
♪七年のあいだ、あなたのために、つくしました。
♪ガラスの丘をよじのぼり、
♪きものの血も、あらったわ。
♪それでも、あなたは、ねているの。
♪こっちをむいて、くださらないの。
と、うたいました。
 つぎの日、騎士がかりに出かけると、なかまの一人がいいました。
「きみのヘやから聞こえる音はなんだ? うめき声となき声と、歌をうたう声が聞こえるぞ」 と、いいました。
「? ・・・ぼくは、なんにも知らない」 と、騎士はいいました。
 けれどもなかまはみんな、すすりなきを聞いたというのです。
 そこで騎士は、こんやは一晩じゅうおきて、見はっていることにしました。
 三日目の晩に、なりました。
 娘はスモモをわりました。
 中からは、リンゴをわったときよりも、ナシをわったときよりも、ずっとずっと、すばらしい宝石が出てきました。
 この宝石で、娘はまた、騎士のへやにはいることができました。  せんたく女は、またしてもねむりぐすりを騎士のところへ持っていきました。
 すると騎士は、 「ハチミツをいれて、あまくしてくれ」 と、いって、せんたく女にハチミツをとりにいかせました。
 せんたく女がいっているすきに、騎士はねむりぐすりをすててしまいました。
 騎士はべッドに入っていると、やがて娘がやってきて、うたいはじめました。
♪七年のあいだ、あなたのために、つくしました。
♪ガラスの丘をよじのぼり、
♪きものの血も、あらったわ。
♪それでも、あなたは、ねているの。
♪こっちをむいて、くださらないの。
 騎士は起き上がると、娘のほうをむきました。
 娘は騎士に、なにもかも話しました。  この騎士こそ、あの黒ウシだったのです。
 魔法で黒ウシにされていた騎士は、『つよいやつ』と戦って勝ったので、人間のすがたにもどったのです。
 それから谷間で娘をさがしたのですが、あのとき娘が足をくんでしまったので、見つけることができなくなってしまったのでした。
 あくる日、せんたく女とその娘は追いだされました。
 そして騎士と娘は、めでたく結婚したのです。


◯牛に引かれて、善光寺参り

長野県の民話
むかしむかし、布引山(ぬのびきやま)という山のふもとのある村に、とてもケチなおばあさんが住んでいました。
 おばあさんは、いつも一人ぼっちでしたが、それをさびしいと思った事は一度もありません。
(誰かと仲良くしたら、お茶やお菓子を出して、わしが損をする。それに家にあげれば、部屋が汚れる。だから一人がいい)
 さて、今日は村の近くの善光寺(ぜんこうじ)というお寺で、お祭りがある日です。  おばあさんが庭で白い布を干していると、お祭りへ行く村人たちが声をかけて来ました。 「おばあさん、今日は善光寺へ行く日よ」
「ねえ、みんなとお参りしましょう」
 でもおばあさんは返事もしないで、白い布を干し続けていました。 「やれやれ、やっぱり駄目か」  村人たちは誘うのをあきらめて、行ってしまいました。
 その後ろ姿を見ながら、おばあさんは言いました。 「寺に行って金を使うなんて、もったいないねえ。それにわたしゃあ、神も仏も大嫌いさ。おがんだところで、腹いっぱいになるわけじゃなし、お布施(ふせ)をとられて大損だよ」
 するとそのとき、どこから来たのか、おばあさんの目の前に大きな牛が現れたのです。
「うひゃーっ!」  おばあさんがびっくりして声を上げると、その声に驚いた牛が、おばあさんの干していた白い布を角にひっかけて、かけ出しました。
「ああ、こら、待て!」  おばあさんは、牛を追いかけます。
 牛は白い布を角にひっかけたまま、どんどん走って行きます。
 その早いこと、菜の花畑をかけぬけて、桜林をかけぬけて、まるで風のように走ります。
 そして牛は善光寺まで来ると、門をくぐって境内へ走り込みました。
 その後を、おばあさんも叫びながら走り込みました。 「こらー! 牛ー! わたしの布を返せー!」
 ところが不思議なことに、牛の姿が突然消えてしまったのです。 「ああ、わたしの布が・・・」  がっかりしたおばあさんは、その場へ座り込みました。
 もう疲れ切って、へとへとです。  するとどこからか、やさしい声が聞こえて来ました。
 それは、お経を唱える声です。  その声は、おばあさんをやさしく包み込みました。
 それはまるで、春の光が体の奥からゆっくりと広がって行くようです。
「おや、こんなにいい気持ちは初めてだ。心があたたかいよ」  おばあさんは、目を閉じました。
 するとおばあさんの目から、涙がどんどんあふれました。  その涙は、おばあさんの心をきれいにしていくようでした。
 やがて、お経が終わる頃には涙も止まり、おばあさんの心はすっきりと晴れていました。
 おばあさんは、生まれて初めて手を合わせました。 「きっと仏さまが、わしをここへ連れて来てくださったんじゃ」
 それからというもの、おばあさんは村人たちに、やさしくするように努めました。
 出来る手伝いがあれば、自分から進んで手を貸しました。  そうすればするほど、心があたたかくなるのをおばあさんは知ったのです。
 おばあさんは、もう一人ぼっちではありません。  いつも村人たちに囲まれる、心やさしいおばあさんになったのです。
 さて、そのことがあってから、布引山には白いすじが見られるようになりました。
 それは、おばあさんの白い布をひっかけて走って行った牛が、白い布を山に残して、それがそのまま白い岩になったのだと言われています。


◯ライオンとウシ

あるライオンが、たいそう大きなウシを殺そうとたくらんで、だまし討ちの計画を立てました。
 ライオンはウシに、 「神さまにそなえるために、ヒツジを殺したから、きみもお祭りの宴会(えんかい)にきたまえ」 と、いって、さそいました。
 じつはウシがやってきて、テーブルについたら殺そうと考えていたのです。
 ウシは、やってきました。
 しかし、そこに大皿や長い焼き串はたくさんあるのに、ヒツジがぜんぜん見えないことに気がつくと、ひとこともあいさつしないで、すぐにかえろうとしました。
 ライオンは、 「きみ、失礼じゃないか。気を悪するようなことは、なんにもしていないのに、なぜだまってかえってしまうのだ」 と、いいました。
 するとウシは、 「ここにならんでいるのは、ヒツジではなくてウシを食べるための準備だからさ」
 このお話しは、かしこい人は悪人の計画には引っかからない、ということをおしえています。


◯円海長者(えんかいちょうじゃ)の大赤牛

福井県の民話
むかしむかし、味真野(あじまの)の里の文室(ふむろ)という所に、円海(えんかい)という長者がいました。
 ある時、その長者が水無川(みずなしがわ)のほとりを歩いていると、川原に見たこともない大きな赤牛がねていました。
「これは、何と大きな牛じゃ」 と、感心していると、次の日も同じ牛がいるので、 「はて、飼い主はいないのだろうか?」 と、不思議に思いました。
 そしてその次の日も、やっぱり牛は同じ所にねそべっています。
 長者は立ち止まって、その牛をつくづくながめると、 「ははーん、きっと底なしの大食らいじゃから、すてられたのだな。よいよい、わしが面倒をみてやろう」 と、言いました。
 すると牛はむっくりと起きあがって、うれしそうに体をすりよせてきたのです。
「おお、わしの言葉がわかるとは感心じゃ」  喜んだ長者は、そのまま牛を家へ連れて帰りました。
 さて、この牛は毎日、まぐさを山ほど食べては寝てばかりいたので、『なまくら牛』と呼ばれるようになりました。
 その頃、都では、法皇が三十三間堂(さんじゅうさんげんどう)という大きなお堂をたてることになって、その棟木(むなぎ)につかう大木を山から都まで運ぶのに、国中の力持ちを集めていました。
 ところが、どんな力持ちが引いても大木はびくともしないので、 「さて、どうしたものだろう?」 と、役人たちが困っていると、
「それなら、円海長者の大牛に引かせてみたらどうだろう?」 と、言う者がいました。
 それでさっそく、円海長者の所へ使いが出されました。
 話を聞いた円海長者は、 (さて、あのなまくら牛に、そんな大仕事ができるだろうか?) と、心配になりましたが、それでも大牛の鼻づらをなでながら言いました。
「お前の力を見せる時がきたぞ。せいいっぱいがんばって、働いてきておくれ」
 すると牛は、のっそりと小屋から出て庭石によだれで字のようなものを書くと、門の外で待つ役人のもとへ歩いていきました。
 役人が力試しにと、三かかえもある大石を牛にくくりつけました。
 すると牛は、平気で大石を引きずっていきます。
「おお、これはすごい!」  感心した役人たちは、さっそくその牛を長者ともども、若狭の国へ連れていきました。
 さていよいよ、大木を運ぶ日がやってきました。
 円海長者は、そわそわと落ちつきません。  たくさんの見物人が集まるなか、牛の体に大木をくくりつけた太いつなが何重にもまかれました。
 ここまできた以上、もう後もどりは許されません。
「よし、いいか。わしの気合いで一気に引けよ。わかったな。そーれっ!」
 長者は大きなかけ声とともに、力一杯たずなを引っ張りました。
 大牛は足をふんばって頭を下げると、グイグイグイーとつなを引きました。  するとそのとたんに、ミシミシギギーと大木が動き出したのです。
 長者は、顔をまっ赤にして応援しました。
「そーれっ! そーれっ!」  そして見物人たちまでが、それに合わせてかけ声をおくりました。
 そしてそのかけ声に合わせるように、ズズズーッと、大木は若狭の山を下り、都へと無事に引かれていったのです。
 これを知った法皇さまはとても喜んで、円海の牛を、 「日本一の力牛じゃ!」 と、ほめたたえました。
 それからそのほうびとして、たくさんの土地を飼い主である長者に与えたのです。
 大牛がよだれで文字を書いた庭石は、『よだれ石』として、今でも文室(ふむろ)の正高寺(しょうこうじ)にのこっているそうです。


◯ウシと野生のヤギ

ライオンに追われたウシが、野生のヤギたちのいるほら穴に逃げこみました。
 ヤギたちはウシをけとばしたり、角(つの)でついたりしました。
 ウシは、 「おまえらにいじめられても、わたしががまんしているのは、おまえらがこわいからじゃなくて、このほら穴の入り口にいるやつが、こわいからだぞ」
 強いものにたいするこわさから、自分より弱いものにいやなことをされても、がまんすることがよくあります。


◯牛になるまんじゅう

福島県の民話
むかしむかし、あるところに、一軒のそまつな宿屋がありました。
 おばあさんがたった一人いるだけでしたが、とても親切そうなおばあさんだったので、時々とまっていく人がいました。
 ところが不思議なことに、宿屋にとまった人は、みんな姿を消してしまうのです。  そしてその宿屋では、お百姓仕事もしないのに、牛を何頭も飼っていました。
 ある時、一人のお坊さんがこの宿屋にとまりました。 「よくきてくれました。さあ、ゆっくり休んでいってください」  おばあさんは、一生懸命お坊さんをもてなしました。
(ほほう。見かけは悪いが、なかなか親切な宿屋だ)
 お坊さんはとても喜んで寝床につきましたが、その真夜中、ごそごそと音がするので目がさめました。
(はて、何の音だろう?)  お坊さんは起きあがって、音のする方の部屋をこっそりのぞいてみました。
 すると、どうでしょう。  おばあさんがいろりのまわりに、せっせとごまの種をまいているのです。
(おや? あんなところにごまの種をまいて、いったいどうするつもりだろう?)
 不思議に思いながら見ていると、床の上にみるみるごまの芽がのびてきて大きくなりました。
 おばあさんはそれをつみとり、なにやらあやしげな粉と混ぜ合わせて、おいしそうなまんじゅうをつくりました。
(これは面妖な。しかしあのまんじゅうを、どうするつもりだろう?)
 お坊さんは怖くなって逃げ出そうと思いましたが、こんな真夜中では、どこへ行ってよいかわかりません。
 しかたなく部屋にもどって、夜が明けるまでがまんしていました。
 すると朝早く、おばあさんがお皿にまんじゅうをのせて持ってきました。 「お客さん、朝ごはんのかわりに、まんじゅうを食べてください」 (ややっ。これは、あのまんじゅうに間違いない)
 そう思ったお坊さんは、 「いやいや。ゆうべごちそうをいただいたから、まだお腹がいっぱいです」
と、言って、ことわりました。
 するとおばあさんは、がっかりして部屋を出ていきました。
 その時、近くの部屋で、 「モー」 と、いう、牛の鳴き声がしました。
 お坊さんがびっくりして駆け付けてみると、部屋からおばあさんにひかれた牛が出てきました。
「これはいったい、どうしたのです?」  お坊さんがたずねると、
「なに、わたしの飼っている牛が、部屋に上がりこんでしまったんですよ」 と、おばあさんはにこにこしながら、牛を庭の方へ連れていきました。
 その時、牛の出ていった部屋をのぞいてみると、お客さんの荷物がおいたままです。
(わかったぞ。あのまんじゅうを食べると、牛になるんだ)
 お坊さんの思った通り、おばあさんは宿屋にとまったお客を牛にして、牛買いに売っていたのです。
(なんて、おそろしいことを)
 でもお坊さんは、何くわぬ顔で、 「すまんが、今夜もとめてもらいます」 と、言って、宿屋を出ていきました。
 そしてお坊さんは町で本当のまんじゅうを買うと、その日の夕方、宿屋へもどってきました。
 すると、おばあさんは、 「お腹がすいたでしょう。すぐに夕ごはんをつくりますから、それまでこのまんじゅうでも食べていてください」 と、言って、牛になるまんじゅうを出しました。
 するとお坊さんは、町で買ってきたまんじゅうをその横へおき、 「いや、わたしもまんじゅうを買ってきたところです。おばあさんのまんじゅうもおいしそうだが、こっちも食べてみてくださいよ」
と、言いながら、牛になるまんじゅうと素早くすりかえて、おばあさんにわたしました。
「それなら、先にあなたのまんじゅうをいただきましょうか」  そう言っておばあさんは、お坊さんにわたされたまんじゅうを食べました。
 するとそのとたん、おばあさんの姿はみるみる牛になってしまったのです。
 こうしてお坊さんは、恐ろしい宿屋の主人を退治したのでした


◯牛鬼淵

三重県
鬼刃を怖がる顔が牛で体が鬼という化け物の話

昔、伊勢の山奥に牛鬼淵と呼ばれる深い淵があり、そこには顔が牛で体が鬼という恐ろしい化け物が住んでいると言われていました。この山奥に、二人の木こりが山がけして木を切り出していました。

ある夜の事、いつものように囲炉裏端で年寄りの木こりがノコギリの手入れをしていると、妙な男が戸口のむしろをめくり顔を出しました。「何しとるんじゃ?」と尋ねる男に、年寄りの木こりが「ノコギリの手入れをしている」と答えました。木を切るためのノコギリと知ると、妙な男は小屋の中へ入ってくる素振りを見せました。

そこで年寄りの木こりが「じゃがの、最後の32枚目の刃は鬼刃(おにば)といって鬼が出てきたら挽き殺すんじゃよ」と言うと、妙な男はどこかへ行ってしまいました。翌晩も、同じ男がやってきて同じ質問をして帰っていきました。

翌朝、木こり達が大木を切っていると、固い節の部分に鬼歯が当たりボッキリと折れてしまいました。折れた刃を修理するため、仕方なくふもとの村まで下りる事にしましたが、若い木こりは面倒くさがって一人で小屋で待つ事にしました。

その夜、また妙な男がやってきて同じ質問をしましたが、若い木こりは酒も入ってたせいか「鬼刃の修理に行っているんじゃ」と答えてしまいました。すると妙な男は「今夜は鬼刃は無いんじゃな」そう言いながら、小屋の中へヌーッと入ってきました。

次の日、ノコギリの修理を終えた年寄りの木こりが山に戻り、牛鬼淵のそばを通りかかると、若い木こりの着物がプカプカと浮いていました。牛鬼は確かにいるのです、月の明るい晩には「ウォーン、ウォーン」と悲しげに鳴くそうです。


◯天下一の花嫁

沖縄県
昔、沖縄の首里という所に、とても美しいつる子という娘と母親が住んでいました。

連日、つる子を嫁に欲しいと縁談が持ち掛けれて困った母親は、首里城近くの園比屋武御嶽(そのひゃんうたき)に、お参りしました。この事を知った近くの豪農のうすのろ息子の多良(たらー)は、悪知恵をめぐらしました。

多良は神殿の物陰に隠れて「ワシは神である。今日帰り道に一番に出合った男とつる子を結婚させろ」と言いました。母親は神様のお告げと信じて感激しながら、帰り道を歩いていると、出会ったのは多良でした。

母親はショックで寝込んでしまいましたが、つる子は「神のお告げなら仕方がありません」と、多良のところへ嫁に行くことにしました。

結婚式の当日、つる子は月夜の晩に迎えのカゴに乗って出発しました。カゴを担いでいた男たちが、酒に酔って道中すっかり寝込んでいる途中、たまたま秋のお月様見物から首里城へ戻る若い王様と出会いました。

若い王様は、つる子の代わりに黒い子牛をカゴに入れて、つる子をお城へ連れて行きました。やがて目をさましたカゴの男たちは、子牛のカゴを担いで、夜明け頃に多良の家に到着しました。

多良はカゴの中に子牛が入っていたので、大変に腹を立てて、つる子の母親に子牛を突き返しました。何も知らない母親は、つる子が本当に子牛になってしまったと思い込み、子牛を大切にかわいがりました。

やがて三月になり、首里城では御前舞踊(ごぜんぶよう)が開催されて、母親も子牛を連れて見物に行きました。すると、役人が母親のところへやってきて、奥御殿へ連れて行きました。何とそこには、美しく着飾り王妃になったつる子がいました。

母親は、つる子からこれまでの出来事を聞いて「神様は、本当に良いお婿さんを選んでくれたんだねえ」と涙を流して喜びました。そして母親も首里城に住むようになり、いつまでも幸せに暮らしたそうです。


◯節句のたんぼすき

兵庫県
ヘソ曲がりな若者も、いつかは大人なるって話

昔は、1月7日、3月3日、5月5日、7月7日、9月9日、を節句といってお祝いしたものです。

ある村では、この5回の節句の前には、村人総出で道の草刈りをしたり橋を修理したりして、翌日はみんなで節句をお祝いしていました。この村にはとてもヘソ曲がりな若者がいて、村の行事にもお祝いにも鼻で笑って一切参加する事がありませんでした。

ある年の5月5日の節句の日、この日は「牛の節句」と言って、毎日働いてくれる牛を休ませてお祝いする日でした。なのに、このヘソ曲がりの若者はそんな事にお構いなしに、牛を連れて自分の田んぼへ向かいました。

若者は、村人たちが注意しても耳を貸さずに「自分のしたいようにするんだ」と言い、牛に田んぼを耕させはじめました。すると突然、足元の田んぼからじゃぶじゃぶと水がしみ出し、みるみるうちに若者も牛も田んぼに飲み込まれてしまいました。

その様子を見ていた村人たちは慌てましたが、若者の父親は「少しは身にしみるだろう」と、助けようともしませんでした。やがて、牛は自力で泳いで泥水から顔を出し、そのしっぽには息も絶え絶えな若者がぶら下がっていました。

この事で、若者の田んぼには稲をうえる事ができなくなり、他人の田んぼを手伝いながら暮らすようになりました。これに懲りた若者は、もうヘソ曲がりな事をするのをやめて、村での行事にも参加するようになり村人たちとも仲良くするようになりました。


◯牛池

新潟県
昔、ある山の中に美しい水をたたえた深い池があった。その池からそう遠くない所に、小さな山里があった。この山里のある家に、欲深な婆様と、気立ての優しい娘が住んでいた。

「鳥や牛に生まれたほうが、どれほどよかったかもしれねえな。」と、娘は思うのだった。娘は婆様に、くる日もくる日も機を織らされているのだ。娘の織る反物は、たいそうな銭になるので、婆様は娘を一日も休ませなかった。娘は手も足も凍え、かじかみ、ひびわれて、崩れていった。

ある日、窓辺に小鳥が迷い込んできた。娘は思わず見とれ、機をおる手足の調子を乱してしまい、縦糸がばっさりと切れてしまった。それを見た婆様は狂ったように叫び、「直さんうちは飯をやらない」と言った。

婆様が寝静まった夜中、娘は外へ出て泣き崩れていた。ふと気配を感じ顔を上げると、目の前に婆様の飼っている牛がいた。牛は、娘を背中にのせて、月の光のなかをゆっくりと歩きだした。そうして牛と娘の姿は、山の池のあたりで見えなくなった。それっきり誰もその姿を見たものは現れなかった。

長い年月が過ぎ、誰がつけたのか、牛と娘が消えた山の池は「牛池」と呼ばれるようになり、月の明るい晩に、機をおる音が聞こえてくるそうだ。


◯牛の宮

奈良県
奈良に近い小さな村に、政吉(まさきち)という男の子がおりました。政吉のお父さんが病気で働けなくなってから、たいそう貧しい暮らしをしておりました。

まだ遊びたい盛りの政吉でしたが、隣村の名主さんの家に六年の奉公に出ることになりました。名主さんの家に行く途中、「もう遊んでいる暇はないから」と、政吉の宝物だったおもちゃの黒牛を、丘の上の木の洞(木の穴)にそっと隠しました。政吉は朝から晩まで骨惜しみせず働くので、名主さんや奉公人にもかわいがられ、楽しく暮らしていました。

ところが、政吉が奉公に来て三年目に、裏山の柿の木から落ちて死んでしまいました。名主さんは残りの三年分の借金は帳消しにしてあげると、政吉の両親に告げたが、政吉の両親はそれでは気の毒だと思っていました。その夜、母の夢に政吉が出て「おらの代わりに黒牛が働くから」と言った。

次の日、名主さんの家に黒牛が現れ、木の洞に隠してあったおもちゃの黒牛はなくなっていました。黒牛は、他の牛の何倍も働く本当に良い牛で、名主さんからもかわいがられました。黒牛が来て三年の月日がたち、本来であれば政吉の年季明けの日となりました。その朝、働き者の黒牛は名主さんの家から姿を消し、木の洞からはおもちゃの黒牛が見つかりました。

名主さんは、その丘の上に小さな塚(つか)を建て、黒牛の霊を弔いました。その塚は「牛の宮」と呼ばれて、今も残されているという事です。


◯あやしい牛

福井県
あれは、、、怪しい牛じゃ ( ゚д゚ )ポカーン

昔、福井は夜になっても大勢の人が行き交う、とても栄えた町だった。

ところがある夜から、金色の二つの光を持った化け物が現れ、町の八百屋を荒らして回るようになった。怖がった人々は夜に出歩かなくなり、町はだんだんとさびれていった。

困った若者たちが、夜の八百屋を見張っていると、化け物の正体はどうやら牛である事が分かった。すると牛飼いと名乗る不思議な老人が現れ、怪しい牛は「どこかの看板から抜け出た牛ではないか」と言う。そこで、町の薬屋の木彫りの牛の看板を確認すると、牛の蹄(ひづめ)にはまだ湿った土が付いていた。

彫り物の名人である「左甚五郎」作の立派な木彫りの牛が、夜な夜な看板から抜け出して福井の町を荒らしまわっていたのだった。牛飼いの老人が、看板の牛の両目と前足にノミで傷を入れると、二度と町中に怪しい牛が出没する事も無くなった。

それ以来、福井の町は再びにぎわいを取り戻した。その後しばらくして、八幡神社の境内に小さなお堂が建てられ、この牛の看板を大切に奉った。


◯石楠花

新潟県
佐渡の大倉村に、とても元気で可愛い娘が、木こりの両親と3人で暮らしていた。娘は、春から秋にかけて放牧している牛の世話係だったが、まだまだ遊びたい年頃だった。

そんな中、黒い子牛が産まれた。黒い子牛がすくすく育つのが嬉しくて、すっかり働き者になって牛の世話や両親の手伝いを嫌な顔せずやっていた。ひと冬を越したある日、母牛が病気で死んでしまった。これををきっかけに、娘はますます黒い子牛を大切に育てた。

それから2年目の夏、子牛は立派な若牛(黒毛の雄牛)に成長した。2本の角も立派に生えそろい、4本の脚もたくましく大地を蹴り、毛並みは黒々と艶やかに光っていた。娘は黒牛にまたがり、山の中を駆けまわって暮らしていた。

ある日の夜、娘は黒牛と一緒に、月夜がきれいな加茂湖を見に行った。帰り際、振り返った娘の目の前に、たくましい若者が立っていた。「私はあんたに育ててもらった黒牛だ。夏の月が加茂湖に映る間だけ、私は人間に姿になる事ができるんだ。私はあんたが好きだ。」

その日から娘は、毎夜毎夜、加茂湖の見える月夜の晩に、若者(黒牛)と会うようになった。娘にとって初めての激しい恋だった。

その年の冬、立派に育った黒牛を両親は売ることにしたが、娘は反対した。そこで娘が寝ている間の早朝に、こっそり牛を売りに出すため連れて行った。気づいて娘は追いかけたが、峠のがけ下で、口から真っ赤な血を流して死んでしまった。

翌年の春、娘が死んでいた大倉峠に一本の木(石楠花)が生えてきた。


◯雲雀むかし

岡山県
牛を虐待するDV男がヒバリになる話

昔、岡山の吉備高原というところに五平という牛飼いの男がいました。

五平は、言う事を聞かない牛には、それはもう何度も何度も打ちつける、とても意地悪で心根の冷たい男でした。女房が「あまり牛をいじめないように」と忠告するのですが、全く聞く耳を持ちませんでした。

この年はとりわけ暑い夏でした。のどが乾いた牛が、勝手に水飲み場へ行ってしまわないように、炎天下の中に木につないでいました。それでも、五平が気が付かないうちに、一頭の牛が綱を引きちぎり、水飲み場へ行ってしまいました。

怒った五平は、牛をしたたかに叩きつけ、水をやらずに牛舎につなぎました。しかし、のどが乾ききった牛は、五平を突き倒してこぼれた水をゴクゴク飲みました。

怒り狂った五平は、水も飲ませないまま、炎天下の中、牛を連れ出し出かけていきました。すっかり弱っていた牛は、途中でとうとう力尽きて動かなくなり、そのまま死んでしまいました。

すると、五平はのどが渇いて渇いて耐えられなくなりました。家に帰って手桶の水を飲みほしましたがまだ足りず、大きな水瓶の水を飲みほしましたがまだ足りませんでした。五平は「もっと水をくれ」と言いながら、そのまま息絶えました。

死んだ五平は、ヒバリに生まれ変わりました。五平のヒバリは、夏になるとやけに喉が渇きました。空から清水を探しては、まっしぐらに降りてみますが、降りてみると清水は消えてしまいます。

いつまでたっても清水の水にありつけず、五平のヒバリは、今も水を求めて飛び続けているそうです。


◯赤牛に乗った仙人

岡山県
作蔵(さくぞう)は、多くの牛を飼っていて、えさのために毎日草を刈っては牛に食べさせてきた。作蔵の住む村の中では、「鳴滝には赤牛にのった仙人がいて、滝の麓には赤牛に食べさせるための草がある。その草を刈ると、仙人の祟りを受ける」という言い伝えがあり、だれも近寄らなかった。

ある日、作蔵はいつも通り草を刈っていたが、あと1束というところで草が無くなってしまった。すぐ目の前には鳴滝がある。「1束くらいいいだろう」と、鳴滝の麓に行き、草を刈った。すると、滝上から赤牛に乗った仙人が現れた。「私の姿を見たことを、誰にも話すな」と恐ろしい口調で仙人に言われ、作蔵はただただ怯えるばかり。

その後、作蔵は魂を抜かれたような状態になり、ふらふらと家に戻った。家でも我を失った状態で、妻に「どうしたの?」と聞かれ、仙人を見たことを話そうとするが、あまりの恐ろしさに「何でもねぇ…」と繰り返す。やがて、気力を完全に失った作蔵は、いつの間にか妻とともに姿を消してしまい、廃墟となった家だけが残った。


◯お萬の火

岩手県
ある村にお萬という身寄りの無い女が牛と一緒に暮らしていた。彼女は牛とともに毎日荷物運びの手伝いをして、生計を立てていた。

ある年、雨が降らず延々と日照り続きで、村は酷い飢饉状態だった。人々の心は荒み、農作物が盗まれる被害があちこちで出始めていた。そんな状況ゆえ、お萬も仕事を断られ続け、仕方なく牛とともに川で水を飲み続けて飢えをしのいでいた。

ある日、耐え切れなくなったのだろうか、牛が暴走し『うしくい淵』に足を滑らせて落ち、沈んでしまう。お萬は絶望しかけたが、「うしくい淵に沈んだ牛が、山を潜って反対側から姿を現した」と言う伝説を思い出し、「山を越えればべこに会える」と信じて山越えを決意する。

しかし、長らく満足に食事をしていないお萬に山越えをする体力などなく、近所の住民に「食料を分けて欲しい」と願うも受け入れられなかった。空腹に耐えられず、思わず大根を抜いてかじり始めたお萬の周囲を、見張っていた村人達が取り囲む。

先日から続いていた大根泥棒と間違えられたのだ。お萬はかじりかけの大根を差し出して詫びるが、村人達は彼女を大根泥棒と決めつけ、縛り上げて無理矢理『うしくい淵』に沈めてしまった。鈴のついた牛の手綱を最期まで握り締めた状態で。

しばらくして、村にはようやく雨が降り、翌年は豊作となった。豊作祭りの日、1人の酔っ払いが川縁を通りかかると、チリンと鈴の音がした。「鈴とは風流な・・・」と酔っ払いが感心しているのも束の間、無数の鬼火が川面に浮かび上がり、「べ〜〜こ〜〜〜」と恨めしげな声とともにお萬の姿が浮かび上がった。

この話を聞いた村人達は、自分達のした仕打ちを後悔しお萬の霊を供養したが、余程恨みが深かったのか、その後もしばらくの間鬼火は浮かび続けたと言う。村人達はこの鬼火を「お萬の火」と呼んだそうな。


◯へか神さん

広島県
先祖代々の苦労が染み付いた石神様の話

昔、安芸の川戸村外原では畑の中にがら(石炭)が多く、へかがよく壊れていた。へかというのは牛に引かせる鋤(すき:田畑の土を掘り起こす農具)の先端の事である。

春になると村のあちこちで畑の鋤入れをしたが、がらを引っ掛けてはへかが壊れるので村人は嘆いていた。中でも村外れの爺さんの畑はがらが最も多く、爺さんの先祖達ががらを少しづつ取り除いたおかげでなんとか作物ができるような有様だった。

ある時爺さんは食うや食わずの辛抱を重ね、ついに生まれたばかりのべこ(牛)を手に入れた。べこは大事に育てられ仕事もよく覚えたので、早いうちから鞍と鋤を付け鋤入れをする事になった。

そして鋤入れの日となり、爺さんはべこを畑に連れて行くとべこに畝(うね:畑の土を盛り上げた所)を引かせた。二畝三畝と引いていくべこを見て爺さんは喜んだが、突然鋤が何かに当たり、驚いたべこが逃げ出してしまう。爺さんがへかに引っかかった物を掘り起こしてみると、それは血の滲み出た奇妙な石であった。

爺さんはてぬぐいで血を拭いてみたが、石は一瞬しわの寄った人の顔のようになったので、薄気味悪く思った爺さんはその石をがら捨て場に捨ててしまった。ところが次の日も畑で同じ石がへかに引っかかり、嫌な予感がした爺さんががら捨て場に向かうと、やはり捨てたはずの石は消え失せていた。

爺さんと婆さんがこの石を近在の人に見てもらうと、「これは血の汗を流し畑を耕してきた爺さんの先祖の魂が石に宿っているに違いない」と人々は言った。村人はこの一件を我が事のように感じ、石を水で清め神棚を作りおまつりした。

すると石に滲んでいた血は消え、それからは不思議な事にへかががらに当たっても上手く押しのけるようになり、鋤入れもずっと楽になったという。村人達は誰ともなくこの不思議な石を「へか神様」と呼ぶようになり、今でも秋になるとへか神様のお祭りが行われているという事だ。


◯円海長者と牛どん

福井県
越前の味真野(あじまの)に、小山のように大きな体の牛がいた。大食らいで怠け者の牛は、長者の家で養ってもらう事になった。

その頃、都では三十三間堂というお堂を建てる事になったが、大きな棟木(むなぎ)を土手に引き上げるのに手を焼いていた。そこで、長者の家で飼われているこの怠け者の牛が借り出されることになった。 この牛は、無事に大きな棟木を引き上げることに成功し、立派に役目を果たした。その後、牛は長者の家に戻り、相変わらず食っては寝ての暮らしを続けた。


◯なまけ坊主

千葉県
昔、千葉のある村に古いお寺があり、そこにどうしようもない怠け者のお坊さんが住んでいた。

この坊さん、お勤めもほったらかして、いつも寝てばかり。檀家の者が法事などのお願いをしに来ても、その度に仮病を使っては断ってしまうのだった。

ある日のこと、寺に檀家の総代がやって来た。ここのところ久しく法事を行っていないので、明日法事のお経を上げてもらいたいと頼みに来たのだ。坊さんは必ず法事に行くと約束したが、翌日になってみればやはり法事に来ない。

今日こそは縄をつけてでも坊さんを連れて来て、きちんと法事を執り行ってもらおうと、檀家衆は寺に向った。すると、寺に坊さんの姿はなく、代わりに坊さんのような顔をした牛が一匹いるだけだった。檀家衆は仕方がなく帰っていった。

この牛、実は坊さんが姿を変えたものだったのだ。坊さんは亡くなった者たちへの供養を怠り、寝てばかりいたので仏様の罰が当り、何と牛になってしまったのだ。

牛になった坊さんは、前非を悔い心から仏様に詫びた。すると仏様のお告げが下った。それは、改心の証に経塚を九十九基作ったなら、元の人間の姿に戻すというものだった。経塚とは、経典を土に埋めて、亡くなった者の供養をするための塚である。

さすがの怠け坊主も、この時ばかりは人間に戻るために一所懸命塚を作った。そして、それから何日かして、とうとう九十九の経塚が完成した。経塚が出来ると同時に坊さんは元の人間の姿に戻り、それからというもの見違えるほど坊さんの仕事に勤しんだということだ。

村の衆は、急に坊さんが働き者になったのに驚いたが、何はともあれ一安心と、たいそう喜んだそうだ。


◯しおうり石

富山県
昔ある山里に、塩を売りに来る商人が居た。

商人は常々、海から山までの往復という苦労の割には儲けが少ない事を嘆いていた。ある日、商人は山の中で塩を見つけて喜んだが、舐めてみるとそれは塩ではなく石灰だった。

商人は、その石灰を粉々に踏み砕き、塩の空き袋に詰めると、連れていた牛の背中に乗せた。そして、翌日になって塩とウソをついて売り始めた。山奥の村人たちは、久しぶりの塩売りということでこぞって塩を買い求め、商人の持ってきた全ての似せ塩を買いあげた。

さて、塩売りが帰った後。ある村人が、味噌を作ろうと樽に塩を入れると中身がカチンと固まった。またある村人が、焼き魚に塩をふりかけると魚も石になった。村人が怒って塩を川に投げ入れると、川が石の川になってしまった。

「塩売りを捕まえろ!」と、村人総出で塩売りを追いかけた。一方塩売りは大儲けした銭を数えつつ山道を歩いていたが、追ってきた村人達に気づくと大あわてで逃げ出した。そして山の上の神社まで逃げてきた時、神社の鳥居から不思議な光が発せられ、その光を浴びた塩売りと牛は、だんだん体が動かなくなっていった。

しばらくしてから追いついた村人達が見た物は、神社の鳥居の前で寄り添うようにして石となってしまった塩売りと牛の姿だった。


◯牛と遊んだ子狐

鳥取県
牛と遊ばせてくれたお礼に、鴨を捕まえてきた子ぎつねの話

昔、鳥取の海田に、貧乏な伍作(ごさく)という男が住んでいました。働き者の伍作は、山に畑を作ろうと牛のアカと一緒に一生懸命働きました。荒れ地を切り開くには、人間一人の力ではどうにもならないので、伍作はアカの力を頼りにしていました。

ある春の事、今日も山の畑で仕事をしていると、どこからか子ギツネがやってきてアカと一緒に遊び始めました。アカも子ギツネが気に入った様子だったので、伍作はそのまま二匹を遊ばせておくことにしました。本当はアカに手伝ってもらいたかったのですが、まぁ仕方ないかと思いつつ、「大事なアカを貸してあげるんだから、今度カモでも持ってこいや」と、何の気なしに子ぎつねに声をかけました。

その夜、疲れですっかり寝込んでいた伍作の家に、子ぎつねがやってきました。疲れて眠たい伍作は子ぎつねを追い返しましたが、朝になって家の外をみると、太ったカモが一羽置いてありました。子ぎつねが伍作の言葉を真に受けて、カモを捕えて持ってきてくれたのです。

伍作は、無下に追い返したのはちょっと可哀そうだったなぁ、と呟き、また今度遊びに来たらアカと遊ばさせてあげようと思いました。でもその後は子ぎつねはやって来ず、ちょっと寂しいと思いながらも、伍作とアカは畑作りに精を出しました。


◯べごをつれた雪女

岩手県
昔、あるところに太一という利かん坊だが、心優しい男の子とお祖母さんが暮らしていた。

ある夜、太一は糸紡ぎをするお祖母さんに「雪が降る日には雪女が出るのは本当か」と聞いた。お祖母さんは「本当だ、雪女は悪さばかりしている子供の所に現れるそうだ。雪女は顔も着物も白く、牛を引き連れていて氷のように冷たい手で乳を搾り飲ませようとする。

その乳を飲むと命を落としてしまう」と答えたが、太一は全く信じなかった。

ある日のこと。太一は近所の子供たちと橋のそばの坂道で、夢中になってそり滑りをして遊んでいたが、日が傾くころになると子供たちも家へ帰ってしまい、気づけば太一ひとりになっていた。

太一は橋を渡って家へ帰ろうとした時、橋の向こう側だけが激しく吹雪いていた。橋を渡らないと家に帰れないので、太一はそろりそろりと橋を渡った。やっと橋を渡り終えた時、目の前の吹雪が止み、そこに白い牛を連れた女が立っていた。

太一は、これはもしやと思い逃げようとしたが身体が動かない。そのうち女が手招きすると、太一の身体もひとりでに女の前に行ってしまった。女は太一に牛の手綱を持たせ、牛に雪を食べさせたかと思うと白い手で乳を搾り始めた。

桶に真っ白な乳が溜まると、女は乳を手ですくいあげ太一の前に差し出した。どうすることも出来ない太一は思わず目を閉じた。すると女は乳を太一の顔めがけてかけたが、太一は咄嗟に顔を逸らし、そのまま気を失ってしまった。

気がつくと空から大きな雪がどんどん降っていた。太一は、あの女が雪女だったのかと考えたがよくわからなかった。何も悪さをしてないし、ひょっとしたら狐の仕業かもしれないと思うのだった。


◯牛方と山んば

新潟県
ある牛方が沢山の干し魚を牛に背負わせて、山を超えて村へ向かう途中、山姥に出会う。

牛方は、魚を食わせろと詰め寄ってくる山姥に、一匹ずつ魚を投げて時間を稼ぐことにした。

しかし、山姥の食べる速度は早く、あっという間に魚は減っていく。山んばは、とうとう最後の魚もたいらげ、なおもべこ(牛)かお前かどちらかを食わせろと迫ってくる。牛方は牛を見る。大切な相棒の牛(べこ)。牛がいなくなれば仕事もできない。だが命には変えられない。断腸の思いで牛を見捨て牛方は逃げた。

牛を丸呑みにした山姥は、さらに牛方を食べるべく追いかけてくるが、牛方は池の近くに生えていた木に登って隠れた。しかしその姿は池の水に映っており、追ってきた山んばに見つかってしまう。万事休すかと思われたが、池に映った姿を牛方と勘違いした山姥は、そのまま池に飛び込んでしまう。その隙に牛方は木から降りて、一軒のあばら家に逃げ込んで、その屋根裏に隠れた。

だがそのあばら家は、なんと山姥の家だった。帰ってきた山姥は、「このまま寝るか、ネズミが怖いから釜の中で寝るか、どっちにすべえか?」と呟く。ここで牛方は、山んばはネズミが嫌いで、ネズミに齧(かじ)られるのを恐れると聞いたのを思い出した。

そこで、牛方は近くに落ちていた木片を取り、これをガリガリ齧りはじめた。この音を聞いた山んばは、屋根裏にネズミがいると思い、大慌てで釜の中に逃げ込んだ。べこの仇を撃つのは今とばかり、牛方は屋根裏から下りて、釜の上に大きな石臼を置き、釜のフタが開かないようにした。

そして、かまどに火を起こしたのだ。かまどの火は勢いよく燃え、さすがの山んばもこの火で焼け死んでしまったということだ。

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